管 絃



(管絃の演奏)

 「管絃」というのはその言葉が示すとおり、管楽器と絃楽器(+打楽器)による合奏です。オーケストラの日本語である管弦楽という言葉はこの雅楽の「管絃」を引用して作られており、今日使われる音楽用語は雅楽用語から派生したものが多くあります。
 「管絃」は雅楽の中でも外来音楽を起源とするものに含まれています。この外来音楽には以下のような種類があります。

 (1) 唐 楽(とうがく)…中国・ベトナム・インド・ペルシャなどの音楽を起源とするもの
 (2) 高麗楽(こまがく)…朝鮮・渤海(現中国の東北地方)の音楽を起源とするもの

この内、唐楽には合奏曲である「管絃」と舞を伴う伴奏曲である「舞楽」の両方がありますが、高麗楽には「管絃」はなく「舞楽」のみです。


平調・越天楽(ひょうぢょう・えてんらく)



雅楽の音律

 雅楽の音律も西洋音楽と同じく1オクターブ12音で構成されます。但し、12音は平均律によって算出されるものではなく、紀元前1000年頃にすでに中国にあったと言われる三分損益法と呼ばれるものです(ピタゴラス律)。また基準音も現在一般的に用いられているA(ラ)=440Hzではなく、A=430Hzとして調律されます。


雅楽の調子

 現在、雅楽では6種類の調子(Key)が残されています(昔はもっとあったようです)。

基準音名     称
D(レ)壱越調(いちこつちょう)
E(ミ)平 調(ひょうぢょう)
G(ソ)双 調(そうぢょう)
A(ラ)黄鐘調(おうしきちょう)
B(シ)盤渉調(ばんしきちょう)
E(ミ)太食調(たいしきちょう)

 上記のように分けられますが、雅楽は西洋音楽のように調性の音楽ではなく、旋法の音楽であると言われています。そのため楽理的に明確に説明することが難しく、慣れないと各調の特徴がわかりません。


管絃の編成

 一般的な管絃の編成は笙(しょう)・篳篥(ひちりき)・龍笛(りゅうてき)の管楽器が各3人、琵琶(びわ)・箏(こと)の絃楽器が各2人、鉦鼓(しょうこ)・鞨鼓(かっこ)・太鼓(たいこ)の打楽器が各1人の計16人編成が標準です。但し、これは決まり事ではなく演奏団体によって様々です。
 雅楽の管絃では西洋音楽のオーケストラのように指揮者がいません。その代わりに曲全体の流れやテンポを統率する役目を担うのが鞨鼓の奏者で、ほとんどの演奏団体では楽長など経験豊富なベテラン奏者が担当します。また管楽器と絃楽器にはそれぞれ主奏者が決められており、管楽器の主奏者を音頭(おんど)、絃楽器の主奏者を面琵琶(おもびわ)・面箏(おもごと)と呼びます。


楽曲の構成

 管絃の演奏では通常は1つの調子の曲のみを演奏します。1回のコンサートで2つ以上の調子を演奏することはほとんどありません。
 演奏会のプログラムでは、まず最初に音取(ねとり)と呼ばれる1分くらいの短いチューニングのための曲が演奏されます。これは各楽器の主奏者と鞨鼓のみで演奏され、チューニングを合わせる目的(特に絃楽器)と、観客に対してこれから演奏する調子の雰囲気を提示するという2つの目的で行われます。
 音取が終わると楽曲を演奏します(音取に対して当曲(とうきょく)と呼ばれます)。当曲は龍笛の音頭のソロから始まり、笙・篳篥・琵琶・箏の順で演奏に参加してゆきます。